難病もいろいろ

病気になってわかったこと、感じたことを伝えます

正常性バイアス?

フルタイムで働きながら、3人の子育てと家事一切を、一人でよくこなしていたと我ながら感心する。まぁ身体はよく動くし、頑張れた。

 

しかし、とにかく疲れて疲れて仕方ない。そんな風に感じ始めたのが10年前。友人らから、それだけ忙しくしていたら当たり前だと受け流され、確かにそうだと納得していた。

 

割と酒豪の類に入るのだけれど、飲み会の最中に、どうしようもない睡魔に襲われ、居酒屋や友人宅で仮眠してしまうことが何度かあった。どんなに酔っても、明け方まで飲めるタイプだったのが、気がつくと途中で寝ているなんて、歳をとるとはこういう事かと納得させた。

 

そんなある日、突然、生理が止まった。遅れることすらなかった生理が止まるとは、いよいよ更年期のスタートか。最近の疲れや異常な睡魔も、更年期のせいだったのか!と腑に落ちた。

 

生理が止まって2ヶ月目に、更年期外来を受診した。月に一度、通院し、4度目に診察した医師から血液検査を勧められた。その翌月の受診日に、やや深刻な表情の院長から、すぐに大学病院を受診するようにと言われた。プロラクチンというホルモンの数値が異常に高く、脳下垂体に病気がある可能性があると知った。

 

身体の不調を、誰にでもある事だと納得させてしまうのもまた、正常性バイアスではないかと思う。そのせいで、わたしは1年以上もの間、脳下垂体の緊急事態なのに、老化現象だと疑いもしませんでした。

 

 

 

 

 

 

患者に嬉しいコラボレーション

どんな分野においても、コラボレーションによる成功は、SNSで話題になるような、何か特筆すべきものがある。

 

わたしの手術も、多くの人に知ってほしいコラボレーションによる成功事例だと思う。

 

内視鏡下経鼻下垂体手術は読んで字のごとく、鼻の穴から内視鏡を入れて、下垂体にアプローチする手術のことです。

鼻の奥は脳につながっていて、鼻と脳の境目には鼻粘膜や薄い骨なんかがある。下垂体まで内視鏡を通すには、それらを取っ払って、トンネルを掘るような作業を伴います。

 

脳の手術なわけだから、脳神経外科医が執刀するのだけど、わたしが入院した病院では、そのトンネル工事は耳鼻咽喉科医が担当してくれる。

 

この利点は、鼻の病気、例えば蓄膿症などの手術を数多くこなしているスペシャリストのほうが、専門知識を生かし、手術により鼻の機能を低下させないことを前提に、巧みに施術してくれることにある。

 

実際、鼻の術後まで考慮しない脳外科医が鼻から脳に内視鏡を通して

匂いを嗅ぐ鼻の大事な機能をダメにしたり、再手術が必要に

なったとき、鼻のトンネルを再構築するのが非常に困難な

状態にしてしまっていたりすることもあるようだ。

 

脳外科医のプライドや、脳の手術に駆り出される

耳鼻科医の疎ましく感じる気持ちや、異なる診療科のスケジュール調整の煩わしさも想像するに容易い。

 

しかし、内視鏡下経鼻下垂体手術は、耳鼻科と脳外科のコラボで

いくのが、患者に最も利益があるという方針の病院は存在する。

日本で、鼻からの内視鏡により行う脳の手術総数の約2割が、

このコラボレーションだそうです。

 

 

ハイスペックな脳の硬膜パッチワーク

ラトケ嚢胞が見つかったのは8年前。

下垂体機能が低下して色々なホルモンが不足するわ

自覚症状はなかったものの、視野障害があることもわかり

手術は避けられない状態だった。

 

手術は、開頭手術か内視鏡手術の二択です。

現在は鼻からの内視鏡手術が一般的だけど、

根治を目指し、開頭手術も選択肢には、ある。

主治医は内視鏡手術派だったし、いきなり開頭手術なんて

選択肢は、8年前のわたしには無かった。

 

脳は硬膜やくも膜に包まれていますが、ラトケ嚢胞はその膜や下垂体に

くっついちゃっているから、ラトケ嚢胞の袋をまるっと

取り出すことはできないのです。重ねてはったサランラップみたいな感じの膜とラトケ嚢胞の袋のイメージ。きれいに剥がすのは

至難の業。ガリガリ剥がそうとして、硬膜だけでなく、くも膜を

ぐちゃぐちゃにしたり、血管や神経、下垂体を傷つけたりしないように、

それでもできるだけ大きく、袋の一部を切り取るのが目標。

 

ラトケ嚢胞に穴をあけるだけでは、袋が再生してしまい

また同じ症状が現れてしまうこともある。わたしの場合

嚢胞に穴をあける程度しか袋を切り取らなかった1回目の手術のあと

しばらくしたらまた、その穴がふさがって液体がたまってしまった。

f:id:sminamimaru:20210610020440p:plain

2回目の手術の話は置いておいて、直近の3回目の手術では

嚢胞の上部も開窓し、周辺の髄液が交通する状態にして、再発を阻止することに。

最後に鼻の奥の硬膜を閉じて、髄液が鼻のほうに漏れてこないように

処置したらしい。

 

わたしの硬膜は過去の手術の影響で硬くなっているため、びろーんと引き寄せて

縫い合わすことができないので、太ももから切り出した筋膜で

パッチワークのようにして穴をふさぎ、さらに鼻の軟骨を

硬膜と筋膜の間に滑り込ませるという高等技。

このハイスペックな三層の膜がしっかり定着して、鼻の粘膜も再生してくれれば

鼻から脳への感染症の心配がなくなるわけです。

 

流動的な髄液のおかげで、ラトケ嚢胞が再び液体を

貯蔵する袋に戻らないことを祈るばかりであ~る。

 

ちなみに、ラトケ嚢胞の再発を繰り返す人は少なからずいて

どんな治療法がベストか脳外科医も試行錯誤のようです。

中には、抗がん剤を嚢胞に注入するなんてやり方をしている

医師もいるそうな。日本じゃないかもだけど。わたしに

セカンドオピニオンをくれた脳外科医は、

嚢胞の袋がつぶれているうちに放射線を照射することを

提案してくれました。